イベントレポート 「逗子落語会 蝶花楼桃花・桂宮治 二人会」2023年7月15日(土)開催

ホール主催の催しの感想や雰囲気をみなさまに発信する活動をしている“情報発信ボランティアライター”の方によるレポートをお届けいたします

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 蝶花楼桃花と桂宮治――今、掛け値なしに、若手落語家のそれぞれのカテゴリーでトップを走る落語家の二人会です。
 開口一番は、桂枝平(えだへい)さん。「前座だから、自分でめくり台を持ってくるんですよね」と自虐的に登場。古典の『浮世根問(うきよねどい)』で座を温めました。
 続いては、父親が大相撲元大関の7代目伊勢ケ濱親方で、身長193センチの大型噺家、林家木りんさん。勝手知ったる相撲部屋を舞台にした新作落語『力士の春』を披露。今年9月に真打昇進予定とのことで、まずは目出度い(めでたい)。
 いよいよ、仲トリは蝶花楼桃花師匠。ピンクの羽織に紺の袴で登場し、場が一気に華やぎました。愛らしい笑顔。高音が耳心地のいい、確かな口跡。そして適度な色気。三遊亭白鳥師匠の新作落語『任侠流山動物園』を、桃花流にアレンジした噺は、女性ならではの華やかさと賑やかさに溢れた作品に仕上がっていました。何しろ、主人公がブタの豚次で、仲間が牛の牛太郎にニワトリのチャボ子、そして象のマサ子、人呼んで“緋牡丹のおまさ”。敵役は、パンダのパン太郎親分と、元兄貴分の虎夫です。男臭い任侠風刺譚が、桃花師匠の手(声)にかかると、なにやらアニメを観ているような、けたたましくて原色いっぱいの世界に変わり、あっけらかんとした笑いが溢れました。桃花師匠の演じるキャラクターが、愛おしくてたまらない。おまけの南京玉すだれプラスかっぽれも、切れの良い身のこなしで、さらに魅了されました。
 仲入り後は、大神楽曲芸の翁家和助さんが登場。緊張と緩和が心臓に悪い(?)数々の曲芸で、観客のテンションも跳ね上がりです。
 そこへ、待ってましたの桂宮治師匠が、舞台に飛び込んできました。何でも、都内で『笑点』の3本撮りを終えての駆け込みとのこと。疲れを微塵も見せず、いたずらっ子の様に目をキラキラさせながら、客席後方の空席をいじりつつ、笑点の裏話で一気に爆笑を引き起こしてくれました。エネルギッシュな動きと、歯を剥きだしにガハハと笑い倒す屈託のなさ。この方を観ているだけで、幸せな気分になれる。初夏に合わせて、渋谷センター街を流すタクシー運転手の幽霊話を枕に、『お化け長屋』へと進みました。怪談噺ではなく、長屋の住人たちが、空き部屋を物置に使うため、家主に内緒で、借り手が来ると嘘の怪談をして追い返すという笑い噺。怖がらせる長屋の杢兵衛さん、怖がる人、怖がらない人、怒る大家さん、とにかくさまざまな可笑しくてやがて悲しき男たちを、全力で演じる宮治師匠。その表情の豊かさに、笑いながらもうならされたのでありました。
 勢いで突っ走っていく二人の後ろを、腹を抱えながら、一気にゴールまで追いかけた2時間強。熱意のあまりに、一瞬脚(口)がもつれても、直ぐに立て直してトップスピードでテープを切った二人。終演後には、大師匠たちのコッテリ濃厚な味わいとは別の、爽快感、清涼感が、舌の上に残りました。

ボランティアライター 三浦俊哉

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 総勢5名による落語と曲芸に満たされた。
 桂枝平さんが、開口一番テンポよくひと笑い起こした。演目は古典落語《浮世根問(うきよねどい)》。その後も彼が高座を返すごとに、あっという間に笑いが起きた。
 林家木りんさんは、背丈が大谷翔平選手と同じでご実家が相撲部屋というプロフィールを活かし、時宜にかなった話が上手。この日はちょうど大相撲名古屋場所の中日で、時刻もそろそろ幕内が後半のころあい。木りんさんのマクラに、私の“推し力士”のお名前が出た!心つかまれたまま《力士の春》を楽しんだ。
 蝶花楼桃花師匠は任侠映画好きで演目も《任侠流山動物園》。三遊亭白鳥師匠の新作落語で、清水次郎長伝をベースにした噺だ。登場するのはブタ・象・パンダなどの動物。なにせ清水次郎長である。日本各地を舞台に繰り広げられる長い噺で、今回はその一部が口演された。パンダが流山動物園⇔上野動物園を「タッタッタッタ!」と駆け抜けるというあり得ない光景が、頭の中で実写化できてしまうのだから、こちらの想像力を引き出す話芸だ。その後に披露された《玉すだれかっぽれ》が底抜けに明るく彼女ならではの華やかさがあった。トークのなかで桃花師匠が「木りんちゃん」とか「宮治くん」というと、急に姉さん(姐さん?!)感が出る。
 周りの人も同じように笑っているのが心地よい。落語も生がいい。近くのお客様が話においていかれたらしく、お連れの方に「どういう意味?」と聞いて、さっと説明してもらう様子など、家でテレビを観てるときのやり取りみたいで妙に寛ぐ。
 仲入後は翁家和助さんによる曲芸《太神楽》から始まった。傘の曲・土瓶の曲、スリリングな出刃皿。とにかく凄くて、おー!えー!すごーい!の繰り返し。太神楽は人々の幸福を願う祝福芸。紙吹雪のようにきらきらと幸せが降ってくるような色物だった。
 桂宮治師匠ご登場。あ、本物だ!と思った。夏らしく《お化け長屋》で納涼。こちらは古典落語である。「二畳四畳半奥が…」と繰り返される長屋の描写に、素足に伝わる感触とか、匂いを感じた。落語・噺・咄、どれも口という字がはいっているが、宮治師匠のお名前も然り。舞台に左右から緞帳が閉まる時、その隙間から最後まで手を振るような方なのだ。配布チラシに紹介されていた著作も読んでみたい。
 心躍りはねた落語会。散会の先には夏祭りの賑わい。まだ少し明るい空に星が見えた。向かい風の気持ちよい宵。なんだか何も彼もが良い感じだった。

ボランティアライター 深谷香

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