イベントレポート 「影絵劇『ふしぎの国のアリス』」2023年2月18日(土)開催

ホール主催の催しの感想や雰囲気をみなさまに発信する活動をしている“情報発信ボランティアライター”の方によるレポートをお届けいたします

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 眠っているときに見る夢―辻褄の合わない出来事が脈絡なく続いていく・・・今日はアリスのそんな物語。
 場面がくるくると変わり、個性的なキャラクターたちが現れては消える長い作品。子ども時代に読んだときは、アリスが落ちていく穴の壁に本棚があるなど、その光景を思い浮かべるのが難しかった記憶があるが、劇団かかし座の影絵は各シーンをどう見せてくれるのだろうと思っているうちに公演スタート。
 俳優3人が登場し、歌い踊りながら芝居をする。まるでミュージカルだ。同時にステージ中央に置かれたスクリーンに淡く柔らかな色彩の美しい絵がアニメのように動く。想像していたものとはまるで違う賑やかな影絵劇。照明が強い赤、青、緑、紫と次々に変わっていく中で、ストーリーが時には影絵、時には歌、踊り、芝居で進んでいく。
 穴に落ちたアリスを待ち受けていたのは次々と起こる奇想天外な出来事と多くのキャラクターたち。ウサギ、ネコ、帽子屋、トランプ、女王、その他たくさん。アリスは置いてあった何かを飲んで小さくなったり、大きくなったりしてなかなか部屋の外に出られない。悪戦苦闘の連続で思わず泣いてしまう。ようやく背丈が戻って延々と続くお茶会に出席してなぞなぞをしたかと思えば、白いバラを赤く塗っているトランプたちに遭遇したり。とうとう裁判に出ることになり、女王から打ち首を言い渡される。スクリーンに立ち上る真っ赤な炎・・・「起きなさい」というお姉さんの声が聞こえる。そう、すべてはアリスが見ていた夢の中のお話。
 途中で進行を中断し、観客と共に手・指を動かしてウサギなどの形を作ったり、子どもたちが席に座ったまま俳優の動きを上半身だけ真似る手影絵ワークショップとパフォーマンスタイムもあった。
 原作を少々省略して、スピーディーな展開で見せた1時間余り。さて、本日、親御さんと共に会場を埋め尽くした子どもたち(園児から小学校低学年くらいが中心)は、この息つく間もない影絵劇をどう感じたのだろう。ワークショップとパフォーマンスでは集中して手や身体を動かしていたが・・・。会場を出る際、前を歩いていた男の子がママに言った。「帰ったら、影絵の動画見てみよう」。興味を持って楽しんだようだ。

ボランティアライター 青栁有美

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 開演直前、まばらに残る空席が埋まっていく。乳幼児から大人まで、多様な年齢層でいっぱいだ。舞台の装置を気に掛けながら、大きく映し出されたアリスの横顔を眺めていた。
 『ふしぎの国のアリス』久しくその物語に触れていないので、影絵劇での再会を楽しみにしてきた。
 劇団かかし座は日本で最初にできた現代影絵の専門劇団で、去年、創立70周年を迎えたそうだ。出演は3名の座員。アリスと道化風の二人が歌ありダンスありで物語を進めながら、影絵も操作していた。手指で作る影絵のワークショップを交え、休憩なしで1時間ちょっとのステージだ。
 開演から10分ほどすると、空いていた隣の席に小学生くらいの女の子が二人、遅れて着席した。お友達同士で来ようと思って、早めに会って遊んでいたら遅れてしまった、というところだろうか。お子様だけでのお出かけにも、ちょうどよい公演なのだろう。
 影絵といっても、べた塗りのシルエットではなく、黒く太めに縁取られた絵に彩りも鮮やかなものだ。とても美術的。とりわけナミアゲハの幼虫のようなイモムシが写実的で気に入った。アリスが大きくなったり小さくなったりするのも、投影の拡大と縮小が巧く活かされていて、中学校の理科でやる“光の反射”を思い出した。
 ハンドシャドウショーで披露された、ダチョウ、ゴリラ、サイは巧緻。手影絵ワークショップの題材は簡単なものから徐々に難しくなっていって(カニ、フクロウ、ウサギ)最後のほうは、指ってそんなになる?と思う絡め具合で、「痛いムリムリ」という大人の声も聞こえた。かかし座のYouTubeでも影絵講座として紹介されているとのことだ。数多の手が同じ動きをしている。ホールに活気が戻ってくるのだなぁと観感。
 あらためて公演のチラシを見てみると、原作は『アリス物語』訳者:菊池寛 芥川龍之介とある。とても興味深いので読んでみた〔”国立国会図書館デジタルコレクション”で検索できる〕。あらすじは違わないのだが、その雰囲気は既知のそれと異なり、私に根付いていたアリスはルイス・キャロルではなく、アニメのアリスだったと気づく。原作に出会い直すことができた。
 観劇と並行して、次々と派生する個人的な思いを味わう不思議な感覚の1時間だった。今度は影絵だけの公演でお話に入り込んでみたい。

ボランティアライター 深谷香

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