イベントレポート 「渡辺香津美 × 沖仁」2022年8月6日(土)開催

ホール主催の催しの感想や雰囲気をみなさまに発信する活動をしている“情報発信ボランティアライター”の方によるレポートをお届けいたします

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 猛暑が続く逗子だが、久々に涼しくなった日に行われた渡辺香津美×沖仁コンサート。なにを隠そう、私はフラメンコギターというのは大好きでよく聞いてきたが、『ジャズギター』とはどういうものか、全くわかっていない。渡辺香津美という人が世界的なギタリストであることは、そんな私ですら知っていた。しかし一体どんな違いがあるのだろう?ホールは文字通りの満員御礼、どんなものが飛び出すのか?
 と思っていたら、一曲目「クレオパトラの夢」から、いきなりガツンと来た。二つのギターがそれぞれに織りなす音は、全く互いに妥協するつもりはない。かといってつぶし合うわけでもなく、調和するわけでもない。これは、そうだ、多声音楽(ポリフォニー)、ブルガリアン・ボイスの合唱のようだと思った。続く「Libertango」などもフュージョン感一杯の多声音楽だ。渡辺氏が「スティール弦のギターとナイロン弦のフラメンコのバトル」という話をしたので、弦に違いがあったのか!と初めて理解。演奏法というより、音色がこんなに違うとは思わなかった。
 それから両者ともナイロン弦ギターに替え、スーパーギタートリオとしてパコ・デ・ルシアなど世界的ギタリストが演奏している超絶技巧の曲「地中海の舞踏」をやる、という。
 渡辺氏がこのトリオの連続演奏会に行った時、「2日目くらいで熱が出て途中で断念した」と語ると、沖氏は、「パコのコンサートに行った時、帰りに具合が悪くなって植込みの陰に座り込んだ」と大いに同調、「ギターにあたっちゃうんですよね」と声をそろえた。渡辺氏が「みなさん当たらないように」と注意を促して演奏スタート。これが圧巻だった!素人にもわかる超絶技巧が猛烈なスピードで繰り出され、多声音楽はどこへやら、二台のギターの音が響き合い競い合い調和しあい、あっという間にくらくらするような異次元空間に引き込まれ、酔いしれた。ブラボーを叫べないのが残念なくらいだった。
 休憩をはさんで今度はエレキギターとフラメンコギターの競演というすごいものを楽しませてくれる。UNICONなど渡辺ファンにはなじみ深い曲だろう。アンコールには、ラヴェルのBoleroを惜しみなく、たっぷりと堪能させてくれた。
 フュージョン感あふれる爽やかな後味の超絶技巧コンサートだった。

ボランティアライター 不破理江

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 ジャズとフラメンコのギターの競演。片や天才ギター少年からレジェンドギタリストとなった渡辺香津美氏。迎え撃つ沖仁氏は、香津美氏より20歳程年下だが、30代でフラメンコ・ギターの国際コンクールで優勝後、深夜のトーク番組で他ジャンルのミュージシャンとのジャムセッションも衝撃的だった実力者。香津美氏と同世代の50代~60代の男女を中心に、会場は満席。最後列だったが、二人の 超絶な“弦さばき”を目の当たりにした。
 曲は、タンゴ(《Libertango》A.ピアソラ)、スペイン(《NekovitanX》渡辺香津美)、ジプシー(《Made in France》ビレリ・ラグレーン)といった沖氏の音楽世界を中心に、ジャズ・フュージョンの名曲(《クレオパトラの夢》P.パウエル、《Antonia》P.メセニー)や渡辺夫妻(!)の曲(《Flamenco Red》谷川公子、《Unicorn》渡辺香津美)等を織り交ぜるといった構成。
 フラメンコ・ギターの沖氏に対して、香津美氏は、クラシック、アコースティック、エレキ・ギターを、曲のイメージに合わせて弾き分ける。ナイロン弦を指でかき鳴らし、時に荒々しく、時にもの悲しく乾いた音を叩き出すフラメンコ・ギターと、スチール弦をピックがなめらかに滑り、繊細でしっとりとした音を奏でるアコースティック・ギターが、曲によって主客入れ替わりながら、ぶつかり合ったり、見事な調和をみせたりする。沖氏からは赤い情熱が床いっぱいにぶちまけられ、香津美氏からは青白い紫煙が身体から立ち昇るイメージが見えた。
 まさに、超絶技巧のテクニックがさく裂したのは、前半最後の《地中海の舞踏》。スーパーギタートリオといわれるアコースティック・ギター3人組の演奏を、海外で生で聴いたという香津美氏は、その日“ギターにあたって、熱を出した”そうだ。二人座ったままの圧倒的な速弾きの競演に、思わず手に汗を握ってしまった。そして後半最後のM.ラヴェルの《Bolero》。あのお馴染みの単調な曲が、香津美氏の12弦ギターの美しい前奏から始まり、主旋律は沖氏の地をはうフラメンコ・ギターが徐々に盛り上げ、最後は香津美氏のエレキを交え、沖氏はついに立ち上がって怒涛の荒弾き、ドラマチックな幕切れに。アンコールは、メロウで都会的な《for the Children》T.オルタ。最後の最後に、エレキを持った若き日の香津美節を“垣間聴けて”感激もひとしお。
 “ジャズとフラメンコ~ジャンルを超えた響きの愉悦”とチラシに謳われたこのコンサート。終わってみれば、愉悦を超えて、軽い眩暈すら感じながら、熱気の澱んだ真夏の夕暮れの逗子の街を、半ば呆然と家路に向かった。

ボランティアライター 三浦俊哉

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