イベントレポート「燃えよ剣」2015年9月18日開催

2015年度から活動を開始した当ホールの情報発信ボランティアの皆さんによるレポートです。
イベントの雰囲気や感想をみなさまに発信する活動をしています。

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2015年9月18日金曜日15時、なぎさホールで朗読劇「燃えよ剣」をみた。
その日、曇り空の一日のはずが公演開始30分前から霧雨になって、ぎりぎりでホールに飛び込んだ。多くは出演者ファンのシニア層だろうか、暗転して静まり返った客席内には開演直前の緊張感が漂っていた。
2013年からスタートしたという、新潟のホールが発信している女性主人公にスポットを当てたシリーズは、今までに岸恵子さん、若尾文子さん、司葉子さん、長山藍子さん、松坂慶子さんといった超一流の女優陣が出演し全国各地で公演をしている。中でも今回の逗子公演は十朱幸代さんの出演、宮川彬良さんがピアノ演奏、そして原作は司馬遼太郎の傑作小説という人気公演である。
舞台中央には幕末の書斎に置かれているようなデスク、そして背もたれの長い椅子に腰掛けた十朱幸代さんが、土方歳三と土方が最後に愛したという女性、お雪それぞれを演じ分ける。
この舞台の数日前に神奈川新聞の芸能欄に十朱幸代さんの「燃えよ剣」に対するコメントが載っており、一人で男性役も演じるということの難しさについて述べられていた。だからストーリーを楽しむだけでなく、十朱幸代さんがどのように登場人物を演じきるのかを楽しみにしていたが、期待通り、素晴らしい舞台をみることができた。確かに十朱幸代の男性役は、なかなかないかもしれない。が、一言、それは見事な演技であった。
また舞台下手、ピアノに向かう宮川彬良さんが、この作品のためのオリジナルの旋律を滑らかに演奏していた。十朱幸代さんの語り・演技を一切邪魔することなく、むしろ寄り添いながら、その場の雰囲気をさらに奥深いものにしていた。
スポットライトに浮かぶ十朱幸代さんと宮川彬良さんの二人が、広い舞台上で輝いてみえた。
余談だが、今秋日本橋の三越劇場でもこの「燃えよ剣」が上演されるようだが、この逗子で三越までの交通費程度でみることができたのはありがたい。
ボランティアライター 大塚登
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「十朱幸代でございます。」淑やかにご挨拶をされて幕が開いた。白っぽい着物姿だ。

朗読劇とはどのようなものなのだろう。舞台にはピアノと椅子と机がある。誘導灯さえも消された演出で気持ちも集中する。十朱さんの帯に大きな丸い模様が見え、時節がら中秋の名月を思わせたが、菊の意匠であったようだ。舞台は土方歳三とお雪が出会う場面から始まった。椅子に腰掛けて本を片手に読む。歳三の台詞は力強く床を踏みしめ、お雪の台詞は膝を揃えて踵を浮かせるような仕草で語る。本を閉じ椅子を離れて語る場面は一人芝居のようでもあった。所々で流れる短い旋律も効果的だ。ふたりの出会いから一年半が過ぎた六月、饒舌な歳三の横でお雪が縫物を続ける場面があるが、その手真似はまるで糸や布があるかのようだった。同じ場面での歳三の台詞「どこか、庭の紫陽花の根もとにでもころがっているでしょう」は歳三そのものだったように聞こえた。
また、その半年後の十二月、ひと目でも歳三を見たいと朝から夕刻まで屯営の軒端でひそかに待つ場面では、背高椅子の背後からそっと伺う芝居で伏見の路上を想像させた。その姿にはひと目みたい恋心と会うつもりはない女心が錯綜していた。西昭庵で夫婦のように過ごしたときに見た夕陽の華やかさは終幕の舞台照明が見事に視覚化してくれた。
十朱さんが退場されると、鍵盤の調べが流れ続けた。宮川彬良さんのモダンな旋律が幕末に似合い、しばし舞台を振り返る。お雪が明るく笑う場面や、涙ながらに語る場面など、舞台に近い席で表情も拝見したかったと思った。ふと、舞台に置かれた机が五角形であることに気づき、五稜郭を思い浮かべていると幕が閉じた。
ボランティアライター 深谷香
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