ホール主催の催しの感想や雰囲気をみなさまに発信する活動をしている“情報発信ボランティアライター”の方によるレポートをお届けいたします。
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逗子の子どもたちに学校で寄席をやってくれ、逗子市民から愛され、応援されてきた落語家、三遊亭わん丈師匠がついに真打! 前座、二つ目の頃からこの逗子文化プラザホールでその芸を楽しんできたのでこれは嬉しい。猛暑の折に夕方から落語会というのがまた、実にいい。プログラムを見ると実に多彩なゲストが登場。わくわくしながら開演を待つ。
前座の桂枝平さん、前座らしからぬ堂々たる話しぶりで早速ホール全体が大笑い。続く紙切芸の林家八楽さん、軽妙なダジャレを飛ばしつつ、観客のリクエストに応えて驚くほどの手さばきでセンスのよい絵を切って見せる。印象的なのは続くリクエストを出すのが全員子どもたちだったこと!落語や伝統芸能に子どもを親しませようという逗子の教育が功を奏しているのだろう。彼らは物おじせず、立派な通人として演芸場を楽しむ素地ができている。これまた喜ばしい限り。続いては、待ってました、林家たい平師匠で「猫の災難」。この人の酔っぱらいは、また実に見事。下戸の私でも白身の魚に合う酒の香りや味が口中にあふれてくるようで、思わずよだれが出そうな気がした。酒の蘊蓄(うんちく)を語る熊さんは、こりゃ舌の肥えたなかなかの通人じゃないか、と感心するようだった。
仲入り後に「口上」とあるので、てっきり相撲と同じようなものだろうと思っていたら、幕が上がるとずらりと四名が高座に並んでいる。八楽さんの司会でまず浪曲師玉川太福さんが、「短い余興の為にわん丈師匠が大変な努力をして浪曲に臨んだ」という話を披露。かつてこのホールで彼の「寿限無」を見た時受けた印象が裏付けされた気がした。続いて、たい平師匠が、三遊亭円丈師匠の芸にほれ込んで落語を目指したわん丈師匠の苦労と出世の物語を語り、最後に看板芸の「花火」で祝った。
続く浪曲で瞠目(どうもく)したのは三味線の巧みさ、浪曲はジャズの掛け合いのように進むのだと初めて知った。
そしていよいよトリを取るわん丈師匠。枕では現在の師匠はじめ多くの人々に支えられた感謝に時事ネタも盛り込み客席を大いにわかす。選んだ噺は「お見立て」。前座の頃から世話になっているたい平師匠に教わった噺という。ひいきの客に会いたくない花魁のめちゃくちゃな言い訳を伝える喜助の長広舌(ちょうこうぜつ)が見どころだが、さすがわん丈師匠、よどみなく会場を大笑いさせてくれる。目の前に花にあふれた他人の墓や線香の煙が見えるようだ。
笑い冷めやらずで家路についた。見事な芸と温かい雰囲気に包まれ、久々に幸せな、よい夕べだった。
ボランティアライター 不破理江
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三遊亭わん丈師匠の真打昇進お披露目公演です。逗子とは長いお付き合いで、前座の頃から、こども落語教室や落語会を、逗子文化プラザホールで開いてくれました。私も6年ほど前に初めて師匠の落語を聴き、明るく切れの良い語り口に魅了されました。「今日は160人収容のさざなみホールだけど、今度来るときは、555人収容の大ホールのなぎさホールで一席聴かせてほしい」とレポートに書いたものでした。私の願いが通じた、凱旋公演となりました。
前座の桂枝平(えだへい)さんは、「わん丈(満場)一致」の明るい小噺を披露。続いて、紙切の林家八楽(はちらく)さんが、会場からのお題に応えて、「大谷翔平」「ブルーインパルス」「スーパーマリオのルイージ」などを器用にこさえ、出題者にプレゼントする大盤振る舞い。そして、仲トリはお馴染み、林家たい平師匠が登場。舞台がさらにパーッと明るくなりました。演目は「猫の災難」。熊さんが、お隣からもらった鯛を兄貴に見られ、頭としっぽしかないのを言えないまま、買ってきてもらった酒を勝手に飲み干し、あげくに鯛の身も酒もすべて隣の猫に盗まれたと言い訳をするドタバタ噺。最後にばれて、「ああ、身のない話ですまなかった」と一言。師匠、千鳥足で退場してお仲入り。
後半は、浪曲師の玉川太福(だいふく)さんを加え、たい平師匠、八楽さんと、わん丈師匠によるお披露目口上です。太福さんは、余興で行う浪曲をわん丈師匠に教える際に、難しいとされる京山幸枝若(こうしわか)の節回しを選んだ努力がすごいと絶賛。たい平師匠は、久しぶりの抜擢真打、16人抜きの昇進に、「出世に遠慮はいらない、芸人は愛されてなんぼ!」とエールを送り、名人芸、“全身花火“で派手なお祝い。最後に会場からも三本締め!
続いて、太福さんの浪曲「三遊亭わん丈物語」。九州で生まれた快男児、大学を7年通い、バンドのボーカルを経て、東京池袋で三遊亭円丈師匠の落語に衝撃を受けて弟子入り、二つ目になった年に1200席、昨年は1509席舞台に立ったという40年一代記をうなりました。
トリはわん丈師匠の「お見立て」。吉原の廓話(くるわばなし)です。花魁の喜瀬川を、艶っぽさに威勢のよさをブレンドした今風の雰囲気で演じ、技量を見せつけてくれました。嫌いな客を追っ払うのに、若い衆に「喜瀬川は死にました」とうそをつかせ、適当なお墓に案内し、「どのお墓がいいか、お見立てください」と、吉原の客引きと同じセリフを言うという下げ。
今一番聴きたい若手は誰かと聞かれたら、私は間違いなくわん丈師匠を「見立てます」。
ボランティアライター 三浦俊哉
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