イベントレポート 「LISA ONO 35th Anniversary 小野リサ with フェビアン・レザ・パネ Duo Delights 2024」2024年12月7日(土)開催

ホール主催の催しの感想や雰囲気をみなさまに発信する活動をしている“情報発信ボランティアライター”の方によるレポートをお届けいたします

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 外は寒さを感じるが、逗子文化プラザのなぎさホールは、開演を前にして満席で、ブラジルのような熱気が流れている。
 ステージ上のギターへ白いドレスのボサノヴァ歌手・小野リサさん、ビアノへややダークトーンの服装のフェビアン・レザ・パネ(以下パネさん)さんが登場。素敵な演奏が始まると、私は魅了されるとともに、思わず「ハマってしまった」。とりわけ小野リサさんの声に。囁きかけるようで、心の中が気持ちよくなる。高音部でも、低い美音に感じる魅力的な音質で歌いあげている。「癒し」と「元気」を同時にくれるミラクルボイス。
 プログラムのスタート部は、ややジャズテイストの味わいの曲目『イパネマの娘』など。続けてカントリー、サンバなどの曲をボサノヴァボイスで歌いあげてくれる。懐かしい曲目が多くて楽しい。なかでも、“私を月に連れて行って”との『Fly Me to the Moon』は、かつては夢のような話だったが、今は現実味を帯びている。プログラム全体を貫いているのは、少し早めの「クリスマス」のコンサートテーマだろうか。
 小野リサさんとパネさんのトークによれば、ボサノヴァ発祥の地「リオデジャネイロ」は三方を山に囲まれ海に面しているそうだ。まさに逗子(市制70周年キャッチフレーズ:海が好き 山が好き 逗子が好き)のようだ。
 休憩を挟んで、パネさんが本公演の数日前に作った曲を披露。今日のコンサートをより盛り上げるきれいなピアノソロ演奏として聴かせてくれた後は、小野リサさんが赤いドレスで登場。堺正章の『街の灯り』など日本の楽曲を、懐かしく、優しく歌った。
 彼女は言わなかったが、彼女の人生感、いや今の私たちへのメッセージだろうか?「ケ・セラ・セラ」(なるようになるさ)の意味が込められた曲なども歌いあげた。来年は、良い年になるとよいのだが、一部では新しい世界の混乱が日本を襲う予想もあるそうだ。彼女のメッセージは、“どんな時でも「ケ・セラ・セラ」の気持ちで頑張れば、幸せな世界が待っていますよ”と。
 最後に難しい願い事だろうが、小野リサさんの魅力的なボサノヴァボイスとギター演奏をマイクなしで聴いてみたいものだ。
 追伸 小野リサさんがトークで紹介された、鎌倉のおいしい物「すっぽんこんぶ」は年内に食べてみよう。

ボランティアライター 海原弘之

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 日本におけるボサノヴァの第一人者でミューズ(女神)、小野リサが、初冬の逗子に舞いおりた。ピアニストのフェビアン・レザ・パネ氏とのデュオコンサートである。会場は満席。チケットは早々に“完売御礼”とのこと。人気の高さを物語っている。
 ボサノヴァといえば、南国の浜辺、木陰の下を吹き抜ける涼風(すずかぜ)のような音楽だが、黄金色の銀杏並木が残る季節に聴いても、不思議としっくりくる。そんな余韻を感じさせてくれたコンサートであった。
 前半、白いドレスで現れたミューズ。12月という事で《Winter Wonderland》で幕を開けたが、ささやくような歌声が聴こえた途端、ステージにはボサノヴァ独特の柔らかな世界が広がった。小野リサの声質も独特である。何かプライベートな領域にするりと潜り込んでくる魔力がある。耳元で歌いかけられているような近しさと、何とも言えない色香に包まれて、1曲目で心をしっかり掴まれた。前半は、ボサノヴァのスタンダードナンバー《イパネマの娘(Garota de Ipanema)》《WAVE》《マシュ・ケ・ナダ(Mas Que Nada)》の他、カントリー《ジャンバラヤ(Jambalaya)》、ジャズ《Fly Me to the Moon》、映画主題歌《ケ・セラ・セラ(Que Será, Será)》といった名曲をボサノヴァアレンジで披露。ギターとピアノのデュエットは、なぎさホールの広さに合ったボサノヴァの演奏形態として、実にマッチしていると感じた。気心の知れているパネ氏のピアノは、とても能弁で、各曲のバックグラウンドをくっきりと縁取る。一方、小野リサのギターは、ささやく歌声を密やかに支える朴訥なリズムを刻む。曲間の二人の、おだやかなトーンで話す会話を聴いていると、心が通じ合っている様が伝わってきた。楽器は異なるが、このコンサートはデュエットではなくデュオなんだなと強く感じられた。
 後半、ミューズは真っ赤なドレスで登場。一転して日本の歌からスタートした。《街の灯り》は、朗々と歌う堺正章の歌唱とは180度違うアプローチ。恋人同士が一緒にいられる幸せを、かみしめるような優しい歌声で表して、不覚にも泣けてきた。荒井由実の《あの日に帰りたい》は元々ボサノヴァテイストの曲だが、失恋に未練を残す痛々しさを感じる原曲が、オブラートに包まれた癒しの曲に変わる。その後は、観客へ、クリスマス・ソングのプレゼントが数曲盛り込まれた。
 失恋の歌も、冬の歌も、小野リサが歌うと、とても温かい風景が広がる。それは決してボサノヴァが持つ特有の世界によるものだけではない。どんな歌を歌う時も、決して笑顔を絶やさない、彼女の人柄がにじみ出ているからだと思う。かつて八代亜紀が「悲しい歌でも、笑って歌うとつらさが軽減する」と言っていたことを思い出した。モナリザならぬ“オノリサの微笑み”に魅了された、土曜日の午後であった。

ボランティアライター 三浦俊哉

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