イベントレポート 「逗子落語会 柳家花緑・桂宮治 二人会」2025年7月19日(土)開催

ホール主催の催しの感想や雰囲気をみなさまに発信する活動をしている“情報発信ボランティアライター”の方によるレポートをお届けいたします

********************************************

 ほんのりと青緑色に照明がさす舞台に、金屏風と赤い高座、紫の座布団をながめる。
 前座の柳家しろ八さんに見覚えがあった。昨年さざなみホールで《元犬》を聴いたことがある。落ち着いた佇まいの噺家さんだ。落語の途中で携帯電話が鳴らないようにとお願いしがてら、携帯会社をネタに小咄でひと笑い起こしてから、与太郎噺《牛ほめ》を口演。
 桂宮治師匠は、おととしの夏も、ここなぎさホールで《お化け長屋》を聴かせてくれた。今日の演目は、滑稽噺《手水廻し(ちょうずまわし)》。元気な宮治師匠に釘付けだった。誇張した言い方で「ちょうず」という度に、膝立ちでひたすら“長頭(ちょうず)”を回す身振りをする度に笑いが起きた。この演目は「知ったかぶり」から始まるドタバタなのだが、見栄っ張りをソフトに戒めているようでもある。
 仲入り後、舞台に現われたのは落語協会所属の音楽パフォーマー・のだゆきさん。水色の衣装が奇抜だった。鍵盤ハーモニカで「踏切の音」や「コンビニの入り口のメロディー」などを再現。2本のリコーダーをくわえて同時に演奏するパフォーマンスにはひときわ拍手が大きかった。鍵盤ハーモニカやリコーダーのような小学校で習う楽器を使って、音大出身を感じさせる演奏も披露してくれた。
 トリの柳家花緑師匠の人情噺《妾馬(めかうま)》が印象に残る。この噺を聴くのは初めてだったが、殿様が町娘のお鶴を見初(みそ)めた通りや、お鶴の実家の長屋や井戸端の様子、また殿様のお屋敷の入り組んだ造りや、お鶴の兄・八五郎と三太夫とのやり取りが目に浮かんだ。高座には花緑師匠しかいないのだけれど、登場する人たちがはっきりと見えるのだった。八五郎が、母親がお鶴に会いたがっているから会わせてやりたいと涙すると空気が一変した。さっきまでのふざけた場が突然シリアスになって、ぐっと感情が揺さぶられた。そのシリアスを引きずらずに「八五郎は出世しましたとさ」と、スッと空気を戻すのも巧みだ。ありのままの自分で本音の八五郎のようなキャラクターに魅力を感じさせる演出だった。
 どの落語も軽やかな笑いを誘うもので、三人三様の好演に多くの聴衆が笑わされた。

ボランティアライター 深谷香

********************************************

戻る