ホール主催の催しの感想や雰囲気をみなさまに発信する活動をしている“情報発信ボランティアライター”の方によるレポートをお届けいたします。
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これまでの人生で、私は腹を抱えて笑った記憶がほとんどなかった。日常生活に微笑みはあり、面白いと思うことも少なくなかったが、それでも声を上げて笑うことはなかった。そんな自分は、どこか欠けているのだろうか。「笑いは健康に良い」と語られる世の中で、特に不自由はなかったが、私はその恩恵を知らずにきた。
そんな折り、友人から「一味違う」「とにかく面白い」と勧められたのが、三遊亭わん丈師匠の落語会だ。会場は逗子文化プラザさざなみホール。同ホール主催公演として数えること「其の八」。つまり逗子で8回目の開催ということだろうか。ホールに到着すると、すでに老若男女が入り混じった長い列ができていた。その光景だけで、場内に満ちるであろう「笑い」への期待が高まった。さざなみホール入口に、三題噺のお題を付箋に書いて投函するコーナーが設けられていたが、早く席に向かいたいとの思いで、そのまま通り過ぎた。
出囃子とともに高座に現れたのは、林家十八さん。三遊亭木久扇を大師匠に持つという紹介に続き、「変身指南」と題したテンポ抜群の噺で会場を一気に温めた。
そこへ満を持して登場したのが、三遊亭わん丈師匠。「孫の営業」と名付けられた噺のまくらでは、逗子市内の小学校などで続けてきた落語会の話が披露された。子どもが親を連れ、親がさらに知人を誘う。SNS時代と言いながらも最強の営業力とは、まさにこのことだろう。この営業力の及ばない落語ファンも併せて満席のホールはさらに盛り上がったようだ。
特に印象に残ったのは、真打昇進後にあった弟子入り志願のエピソードだ。顔も合わせずホームページ経由で連絡してきた弟子入り志願者に違和感を覚え、自分の師匠へ電話で相談したところ「お前も電話じゃないか」と即座に返されたくだり。笑いの中に、自らを省みる視点がさりげなく織り込まれており、噺の奥行を感じさせられた。
お仲入り前には、客席参加型で三題噺のお題決め。付箋にお題を書いた観客によるジャンケン大会の末、「冬季オリンピック」「トマト」「万博」が選ばれた。
短い時間のお仲入り後に、軽やかに3つのお題をひとつの噺にまとめあげて聴かせてくれた。後方から小声で「古典は聴けないのかな」と声が漏れた、その直後。師匠は空気を察したかのように、にこやかに古典落語「蒟蒻問答」へと入った。その切り替えの鮮やかさもまた、客席を唸らせているようだった。
結局、公演を通じて私は声を立てて笑うことはなかった。だが、思わず何度も「クスリ」としている自分に気づき、静かな驚きを覚えた。高座を観ていて演出家としても優れた三遊亭わん丈師匠。もしこの才覚を別の世界に注いだら、新しい息吹が宿るのではないか、そんな思いが浮かんだ。
とはいえ、より多忙になっても、逗子文化プラザでの公演は続けて欲しい。逗子が笑顔で溢れ、みんなが元気でいられるように!
ボランティアライター 海原弘之
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開演5分前、さざなみホールに入ろうとすると、着物姿の人が振り向いた。わん丈さんだった。その距離30cm。うわっ!! 親しみを込めて、三遊亭わん丈師匠を“わん丈さん”と呼ばせていただく。
前座の林家十八さんの落語は新作だった。古典落語《鶴》を復習(さら)っていたところ、わん丈さんが客席に「古典と新作どっちが聴きたいですか?」と投げかけて、新作になった。《変身指南》を聴かせてくれる。
わん丈さんの一席目は《孫の営業》。こちらも新作で、お題が「師走・事始め・太陽光発電」の三題噺から生まれたものだそうだ。途中、前の席の女の子がくるっと振り返って後ろの席のお母さんを見た。「いまのおもしろかったよね」と言っているみたいでかわいかった。どうやら、わん丈さんの落語教室の生徒さんのようだ。わん丈さんは10年以上前から逗子で、小中学校での落語会(アウトリーチ)や、こども落語教室をやっている。最初の生徒さんはもう大人で、素敵な関係が続いている様子だ。
わん丈さんの三題噺はいつも楽しみだ。来場者が開演前にお題をホワイトボードに預ける。自分のお題が選ばれるか(じゃんけんで勝ち抜けるか)どうかも楽しみになる。今回のお題は「冬季オリンピック・万博・トマト」になった。じゃんけんの行方を見届けるべく会場を見渡して感じたのが、客層の広さだった。休憩をはさんで出来上がった噺を発表・・・その前に十八さんがちょっとだけ木久扇大師匠の話をしてくれた。
トリはわん丈さんの古典落語で《蒟蒻問答》。可笑(おか)しさと妙な感心が交ざる一席だった。わん丈さんの眉の上がり下がりや身振り手振りが可笑しくて目が離せないのだが、蒟蒻屋と修行僧の問答みたいに、人って勝手な想像と勘違いで納得したり怒ったりしているのかなと首肯。座布団を横にはずし、深々とお辞儀をして終わるわん丈さんの首筋は今日も美しかった。真打になられたので、もう、さざなみ亭にはいらっしゃらないと思っていたけれど、そんなことはなかった。
落語もまくらもトークも繋ぎがなだらかで、ふふふ、ふふふと笑いに誘われた。真ん中あたりの席に座ることができたので、八方から笑いが聞こえてきた。お客さんにピンポイントで話しかけたり、そこでのやり取りを落語に取り入れたり、場に臨む楽しさを味わうことができた。
まだ明るい夕方、わりと暖かくてまわり道をしたくなった。仲町橋という赤い橋のほうに歩くと散歩中の柴犬が座り込んでいた。そのあとも、なんだか犬がたくさんの帰り道だった。
ボランティアライター 深谷香
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