★イベントレポート 「なぎさジャズコレクション 山下洋輔 JAZZ Live」12月14日(土)公演

当ホールの情報発信ボランティアによるレポートです。イベントの雰囲気や感想を発信する活動をしています。
 
 
昨日の寒さが一変。師走にしては暖かく逗子湾と空のスカイブルーが美しく気持ち良い日。日本ジャズ界を半世紀にわたりリードしてきた山下洋輔氏の逗子でのライブ。
熱気が、逗子文化プラザホールのエントランスから溢れている。
 なぎさホールは満席。観客の発する熱気とは異なるアツイものを感じさせる雰囲気だ。ジャズを聴くと、自分が少し大人になったような気になった学生時代を思い出す。客席は昭和の高度経済成長期を駆け抜けてきた知的な雰囲気のカップル等が目立つ。
 白いパンツにダークベストを身に付け、背筋がピシッと伸びた山下洋輔氏がピアノの鍵盤を力強く叩き始める。演奏のはじめから観客は洋輔サウンドの中に入り込んで、舞台がライブ会場に変身。迫力と繊細さが入り交じり、逗子湾に打ち寄せる波のように聴こえてくる。
 演奏の合間に同氏がマイクを握る。今回の公演は、逗子文化プラザホールオープン時に演奏して以来だそうだ。今日は横須賀線で来たが、かつて葉山に居住していたとのこと。
 演奏曲のひとつのオリジナル曲《Only Look at You》の意味は、“そばに素敵な人がいるとき”。「その人しか見ないですよ」と、「見るだけで何もしませんよ!」の2 つの意味があり、自戒(?)としていると話す同氏。客席の女性たちの笑い声がホールに響く。男性たちは、苦笑いをしているようだ。
 また、今後演奏する際の楽譜は紙からスマホに代わるかもと、国立音楽大学作曲科を卒業した経歴の同氏らしいお話しも。ラストの定番曲≪ボレロ≫は誰もが好む、一定のリズムを繰り返すクラッシック曲。山下洋輔氏流にジャズると、青空に自分の体が自由に飛びまわるような快感だ。
 同氏がジャズの世界に入ったのは、お兄さんが太陽族(石原慎太郎著『太陽の季節』:既成の秩序にとらわれず奔放な考えと行動をする戦後の若者を描いた小説)でジャズをやっていて、その影響を受けたからだと友人が語っていた。逗子は太陽が似合う町。なにかの縁(エニシ)を感じる。
 山下洋輔氏はたしかに巨匠だが、私たちにとって大切な有形文化財。ご自身の健康に留意され、気軽に、逗子に演奏しに来てほしいものだ。

ボランティアライター 海原 弘之


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 開演まであと10 分。ステージに置かれた1 台のピアノを見ているだけでワクワクしてくる。あそこから、どんな音が奏でられるのだろうか。人気、実力共にトップジャズピアニストの登場とあって公演前にチケットは完売。いつにもまして、熱気にあふれた客席には、シニアのカップルが目立つ。
 15 時スタート。鍵盤の上で、指をスピーディーに動かしながら、穏やかさも激しさも、スローテンポもアップテンポも自由自在に操っていく。ピアノの音色は深く美しく、強さと柔らかさが共存しているよう。オーソドックスなジャズとは異なる魅力。これぞ山下洋輔の世界!和音が魅惑的に響き、速いスピードで弾いても、メロディの美しさが乱れない。低音を唸らせるテクニックは聞く者を圧倒する。情熱と迫力ある演奏に、こちらもエネルギーが必要だ。
 古くからの名曲が山下流のアレンジで新しい輝きを放つ。クリスマスらしい遊び心いっぱいの《クリスマス・ソング・メドレー》。「あんたがたどこさ 肥後さ...」で始まる《仙波山》は、粋でおしゃれに変身させたなと思っていたら、曲がどんどん広がっていき、パッション、悲しさ、甘美、優しさが次々と現れ、まるで万華鏡を見るような見事なアレンジに、すっかり引き込まれてしまった。
 山下氏作曲の中では《Only Look at You》が特にステキだった。大人の恋を思わせるロマンチックなメロディに、ジャズ独特の甘さが漂う。様々なアレンジを加えながら、繰り返される主旋律の美しさに酔いしれた最高の時間だった。
 終演後、客席のあちこちから賞賛の声が聞こえた。「良かったねえ」「凄かったなあ」...。
 なぎさホールを出ると、今までに発売された幾種類ものCD が並んでいた。CD を購入した多くの人が列を作っているその先で、山下氏は1 人1 人に丁寧にサインしていた。ライブ中、1 曲ごとに、その作品にまつわるエピソードを静かな語り口で紹介していた姿と共に、華々しい経歴の持ち主ながら、演奏、そして観客に誠実に向きあってくれたことが嬉しかった。


ボランティアライター 青栁 有美