★イベントレポート 「新春雅楽」2020年1月25日(土)開催

当ホールの情報発信ボランティアによるレポートです。イベントの雰囲気や感想を発信する活動をしています。

 令和2年1月25日、土曜日。本年の旧正月の日に「新春雅楽」を聴きました。
 奏するのは、伶楽舎(れいがくしゃ)解説入りの親しみやすい演奏会を企画し、雅楽への理解と普及に努める男女の集団という触れ込みです。
 私は “雅楽”というと、皇室の儀式で演奏されたり、結婚式で聴いたりという程度の知識しか持ち合わせていませんでした。演目を見ると、大きく「管絃」、「催馬楽」(さいばら)「舞楽」とあります。調べると、「管絃(管絃楽器と打楽器の演奏のみ)」、「催馬楽(歌入り)」、「舞楽(舞を伴う)」という解説でした。
 舞台は、白い布の上に、文様の描かれた緑色の敷物が敷かれ、四隅には橋の欄干のような朱色の柵が置かれています。楽器を抱え、相撲行事のような装束を身にまとった男女計11名がしずしずと登場し、3列にあぐらをかいて座りました。
 八つの雅楽器の音合わせの後、管絃≪越天楽≫が始まりました。和装の結婚式で流れるおなじみの曲です。
 管楽器の「笙」(しょう)が、これぞ雅楽の代名詞ともいえる独特の音色で和音を奏でます。たて笛の「篳篥」(ひちりき)の太い音と強烈な音量、よこ笛の「龍笛」の細く高く朗々とした音は非現実感を漂わせます。絃楽器の「箏」、「琵琶」、小さな金属の打楽器「鉦鼓」(しょうこ)、小さな皮の鼓「鞨鼓」(かっこ)、輪につるされた大きな「太鼓」はそれぞれがゆっくりと、癒しの空気を音で醸し出します。
雅楽と西洋楽の大きな違いは、後者が現実の人や風景を連想させるのに比べ、前者は神の世か宇宙といった、非現実の世界を表しているような気がしてなりませんでした。その理由は、皆で、≪越天楽≫の「篳篥」の楽譜を歌った時に気づきました。その音階が、映画『未知との遭遇』で宇宙人から発せられた五つの音階とそっくりだったからです。
 その後も、平安貴族が歌った催馬楽≪新しき年≫、あの光源氏が見事に舞ったとされる優雅な二人舞い≪青海波≫(せいがいは)、酔っぱらいを力強く表現する一人舞い≪胡飲酒≫(こんじゅ)と、異空間が続きました。
踊り手の赤や緑の装束も、平安以降の着物とは少し違った独特の雰囲気を持っています。
 古代の土偶が宇宙人を表していると言われるように、雅楽も実は、中国や朝鮮からではなく、大気圏外から来た何者かの影響を受けたのかも知れません。

ボランティアライター 三浦 俊哉

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伶楽舎(れいがくしゃ)は、国内外で幅広い活動をしている雅楽の演奏団体だ。楽人(がくにん)11人の装束がカラフルで明るく、聴衆を温かく迎えてくれるような雰囲気があった。雅楽にはいろいろな決まり事がある。管楽の音取(ねとり)(演奏前のチューニングのような楽曲)では、笙(しょう)→篳篥(しちりき)→龍笛(りゅうてき)→鞨鼓(かっこ)→琵琶(びわ)→箏(そう)、といった具合に音出しの順番が決まっている。舞楽では演目により身につける装束の色や柄まで決まっている。威圧感も想像できたが、正しく整った心地よさ、のようなものを感じた。
《越天楽》(えてんらく)は龍笛の独奏で始まる。張りがあってインパクトのある音だった。あとに続くどの楽器も、音色の個性を発揮しながら、ゆったり演奏された。そんなゆったりした雰囲気に似合わず、笙の奏者が演奏の合間にひたすら笙をくるくる回している。何をしているのだろうと思ったら、息で湿ったリードを電熱器で乾かしているそうだ。20分ほど楽器の説明を聞いたり、唱歌(しょうが)(旋律を覚えたりするときに歌うもの)の体験をしたりした。新鮮だったのが雅楽の“調”のお話。五線譜でいう〇長調とか〇短調にあたる“調”のことなのだが、《平調音取》(ひょうじょうのねとり)の“平調”もそのひとつで、「ト短調の4,7抜きで…」と説明され、“???”となった。どうやら、ト短調(ミとシが♭になるソラシドレミファ)のうち、4番目のドと、7番目のファを抜かしたソラシレミソラシレミ…と進む音階という意味だったらしい。ところどころ難解だったが非常に興味深い内容だった。その後、新春らしい曲が4曲続けて演奏された。
休憩後は舞楽。《青海波》(せいがいは)は二人の舞人(まいにん)が横に並び、同じ振付けで舞う。萌黄色の袍がたいへん美しく、青海波の模様や千鳥の刺繍を、ぜひ近くで見てみたかった。《胡飲酒》(こんじゅ)の舞人は茶色っぽい舞楽面をつけ、酒杓を持ち、ちょっと変わった沓(くつ)をはいている。酔った人の設定だが、しっかりとした足取りで、貫禄のある舞だった。敷舞台を広く使い、動きまわることで酔いを表現しているのだろう。伶楽舎の方は皆さん多芸なのだろうか。何人かの奏者は管絃と舞楽で違う楽器を演奏していらした。
 立春も過ぎた。いつお雛様を出そうか大安をチェックする。数年前に“閑雅”という書の御作を頂戴して、いつも雛壇に飾らせて頂いている。私の大切な“雅やかスイッチ”だ。今年は少し早めに入った。

ボランティアライター 深谷 香

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 雅楽を生で聞くのは初めてだし、知識は皆無なので、公演前に少し調べてみた。平安時代の音楽だと思っていたが、その歴史は遥か以前に遡り...頭を切り替えた。この際、難しいことは抜きにして演奏を楽しもう。
 まずは管絃(笙、篳篥、龍笛(管楽器)/琵琶、箏(絃楽器)/鞨鼓、太鼓、鉦鼓(打楽器)による合奏)からスタート。タイトルだけは知っていた《越天楽》。凛として上品。曲が最も盛り上がるところでも、一糸乱れぬ演奏。心が澄んでいくようだった。
 同じく管絃の《入破》。各楽器の音がはっきりと聞こえてくる。音色はまったく違うのに、合奏すると魅力的な音のコラボレーションを紡ぎ出す。長く日本で演奏されてきた雅楽は、日本人の感性にゆるやかに入り込み、
リズムも日本人の体内時計に合っているようで心地良い。いつまでも聞いていたい気持ちになった。管絃最後は《武徳楽》。管楽器の音が明るく混じり合い、打楽器で強いアクセントをつける華やかな曲。同じ楽
器でも吹き方、響かせ方、打ち方で、随分と印象が変わることに少々驚いた。
 一部では、この他に催馬楽(歌曲)の《新しき年》が楽器演奏をバックに歌われ、会場が厳かな雰囲気に包まれた。
音の高低が少なく、淡々と歌われ、静かに、ゆったりと進んでいった。
 休憩を挟んで、二部は管楽器と打楽器に舞が入る舞楽。《青海波》は古典文学『源氏物語』の中で、光源氏が舞ったことで有名。草色に橙色と金色が映える衣装を身にまとった男性2 人が舞台中央に現れ、ゆったりとした舞を披露する。この静かに流れていく時間の中で、私の頭の中に様々な空想が広がった。美しく輝く光源氏。それを憧れと羨望の眼差しで見つめる貴族たち。彼らをとりまく雅な宮廷文化。和歌、十二単、蹴鞠、季節ごとの行事(花見など)は、自然と洗練された文化が調和して、絢爛たる美しさだったに違いない...咲き誇る桜、風に舞う花びら、着飾った貴族たちの笑顔...次から次へといろいろなシーンが思い浮かぶような音楽と舞。摩訶不思議な力に引き込まれた。
 時空を超えて、京の都に降り立ったような2 時間。千年の昔を覗いてみるのも、いとをかし。

ボランティアライター 青栁 有美