★イベントレポート 「藤原道山×SINSKE ~尺八とマリンバによる世界最小オーケストラ~「十年十色」」2022年1月22日(土)開催

ホール主催の催しの感想や雰囲気をみなさまに発信する活動をしている“情報発信ボランティアライター”の方によるレポートをお届けいたします。

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 コロナ禍が終息するどころかオミクロン株の出現で感染拡大が続き、また例年以上に厳冬の日々が続いている。せめても身体をうちから温めるには音楽が一番と思い、なぎさホールに足を運ぶ。以前から藤原道山氏のコンサートに行ってみたいと思っていたが、今日ようやく実現した。テレビやYouTubeで、故冨田勲氏の名曲を聴いたくらいだ。結構な客入りだ。観客席を見渡しても観客の年代にあまり片寄はなく、幅広い世代に人気があるのがよくわかる。
 今年は、尺八の藤原道山氏とマリンバのSINSKE氏が「世界最小オーケストラ」を結成してから十年が経った記念の年である。「十年十色(といろ)」と銘打っている。能楽師 野村万作氏の人間国宝認定パーティーの際、息子の萬斎氏からラヴェルの「ボレロ」の演奏を依頼されデュオを組んだのが、この異色コンビの馴れ初めというのも面白いエピソードだ。和を代表する尺八とアフリカ>メキシコ>アメリカと渡って発展したマリンバのコンビがどのような音楽を作り上げるのか想像もつかない。
 コンサートは、二人のオリジナル組曲「風神×雷神」から始まった。この曲を聴いて頭に思い描かれる光景はシルクロードだ。東洋と西洋が入り混じった感覚で、この二つの楽器の味が出ている。次の「アマポーラ」はボサノバでスペインのイメージ。またその次がアルゼンチンタンゴ。どの曲も、竹の響きと木の響きがよく合っている。
 音楽を聴いている時は、常にその音楽が似合う場所を思い浮かべながら聴いているものだが、このコンサートばかりは、それが一箇所ではなく世界中あちらこちらに飛んで行き、世界旅行をしている気分になる。次に世界のどこに行くかわからないワクワク感がすごい。世界中の音楽を創造できているわけだ。たった二つの楽器でこれだけ厚みのある音楽を創造できるのは、それぞれの楽器の良さを最大限引き出す匠の技が欠かせないだろう。尺八の息、足によるパーカッション、マリンバの三本バチなどはほんの一部だと思う。
 一番のお気に入りは、ジャズからチック・コリア「スペイン」。テンポ良くウキウキする感覚。山田耕筰メドレー、滝廉太郎「荒城の月」で日本に帰ったかと思いきや、ムソルグスキー「展覧会の絵」、そしてアンコールでクラシックから「ボレロ」。多彩なプログラムで聴衆の度肝を抜いた。
 十年十色、次の十年も更に多国籍音楽を創造し続けてもらいたいと思う。

ボランティアライター 福岡伸行

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 「マリンバ」とは、学校の器楽合奏で叩いた、あのマリンバと尺八?‐この世界最小のオーケストラの意味を全く分からずに出かけたなぎさホール。会場は年配女性の姿が多い印象。やはり落ち着いた音楽なのか?などと思っているうちに開演のベル。
 舞台に登場したのは若々しい青年二人、光沢のある揃いの白の衣装に靴まで真っ白、思わず「かわいい!」と嬉しくなるような爽やかさだ。
 すると一転、尺八の鋭い音が空気を切り裂いた。雷に打たれたような衝撃、マリンバの音が畳みかけるように一気に聴くものを異界の空へと駆けあがらせる。尺八の破裂音、マリンバの稲妻が重なりあい、もはや演奏者のことなど忘れて音だけの世界に集中する。尺八の長い呼吸音に合わせて自分の呼吸も深くなる。目を開けていられない、天空を駆けまわる風神と雷神の姿、虚空を走る稲光、駆け巡る風。道山氏の呼吸音と打楽器の振動がホール全体を包み、経験したことのない音の世界が頭の中に映像を作り出す。感動で涙が出そうになった。このスケール感は、まさしくオーケストラだ。
 たった今、未曽有の体験をさせてくれた音楽家たちは、爽やかに笑いながら、結成十周年を記念して、十の音楽スタイルに挑戦している、という。二曲目は打って変わってボサノバ、この洒脱な変身ぶりに又驚く。ダイナミックに全身を使って演奏するSINSKE氏の素敵な白い靴は、三本目の手のように床を踏み鳴らし、足首にはなんと鈴と木の実が。この立体的でドラマチックな演奏は持てるすべてを使って演奏することでも可能になっているのか。
 ジャズナンバーのスペインは圧巻。続くスタンダード曲も素晴らしい。ソロで神業を披露する各人の魅力も楽しめるが、やはり二人合わさった時に生み出される音世界は、言葉を超える。ビッグバンを起こしたように衝撃的に新しい宇宙が開けるようだ。オリジナル曲で二人がそれぞれお互いの音楽を最大に生かせるメロディーを作っていることが感じられる。アジア的センスがアニメ鬼滅の刃のシーンも彷彿とさせ、とにかく大感動の一日だった。ホールの音響の良さなしにはここまでの感動を味わえない。見逃した方、次回は必見です!

ボランティアライター 不破理江

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